読みもの

2023/03/01 11:53



葵工芸さんは京都市京北町に工房を構えています。

京北町は、京都市の北端に位置します。
京都の町の中心から車で小一時間ほど走ると、すっかり自然に囲まれたこの町に到着します。

実は京北町には工房さんが数多くあります。
なので豊かな自然があり、古くからの伝統が共存する町です。

葵工芸さんの全ての作品は、地元の「北山杉」から作られます。

北山杉の歴史は600年前の室町時代よりはじまります。
同じく北山杉で有名な中川八幡宮に生える「白杉」も樹齢600年になります。

「北山杉」の特徴はなんといっても、この美しい表面仕上げにあります。
これは「磨き丸太」と呼ばれ、地元の水と砂で丹念に磨かれた表面は独特の滑らかさがあります。

またこの磨きについて、ある言い伝えが残されています。
昔、病気で倒れた僧侶をある中川の村人が助け、丁寧に看病をしたそうです。
するとその僧侶が、菩提の滝で採れる砂で磨くと、とても美しい杉になると村人に教えました。
そうしてこの美しい北山磨き丸太は、たちまち都で評判になったと言い伝えられています。

北山磨き丸太は、この表面が特徴です。
木肌は滑らかで、光沢があります。
しかしながら切断した内部の断面は、同じく一般的なスギの木目模様となるので、
この表面をいかに活かした作品デザインにするかがポイントになります。

木肌を出すように製材するので、切り出し方法が限られてきます。
また一つ一つ木肌の色合いや風合いが違うので、組み合わせが難しくなります。
さらには、表面の凹凸もそれぞれ違うので、接合部の段差にも注意する必要があります。
そのため、北山杉を扱うことは、難しいことが多いです。

蒲生さんは2代目になります。
2000年より葵工芸を継がれました。
蒲生さんはこの美しい木肌が、どのようにすれば良く出るかを常に考えています。
その中で、作品のアイデア出しが一番大変な作業だそうです。

そうして磨き丸太の表面の特徴を出しながら、作品のデザインを決めていきます。
毎年5、6個は新しい作品を作っておられます。
アイデアがどうしても思い浮かばない時は、美術館や工芸展をめぐり、
作った作品は展示会で出展し、お客さんからの感想から試作を繰り返していく場合が多いそうです。
そうして現在の磨き丸太の良さが出た、葵工芸さんの作品の数々となっています。

葵工芸さんは、この北山杉の魅力を伝えるために日々作品作りに取り組んでおられます。
北山杉を扱う製材所さんは、年々減ってきています。
そのため、工芸作品で北山杉を扱うことで、皆さんの手に届き、
北山杉が注目される助けになりたいと考えておられます。

また工芸品は北山杉の有効利用と、蒲生さんはおっしゃっています。
基本的には建築柱として用いられる北山杉の磨き丸太は、
全て無傷であり、また色味や風合いが完璧であるものが最高級品として扱われます。
小さな工芸品にする場合は、1本丸太の一部を加工して製材するので、
例えばキズが一部あることではじかれてしまった、北山杉の磨き丸太を有効活用することができます。

こうして完成した葵工芸さんの作品は、最高級ブランドの北山杉磨き丸太として、
品のあるツヤや美しい木肌を、そのままに表現した作品になります。

よく手作業で、模様を入れているのかと言われるそうで、
自然の模様ですと答えると、驚かれる方が多いそうです。

また、作品には仕上げ塗装をしていません。
この点も磨き丸太の長所になります。
木肌は年数が経つと、飴色にツヤが出て味が出ます。
この自然本来の色合いとツヤ出しの技術が、葵工芸さんの作品の良さです。

蒲生さんの作品は、北山杉の特徴をしっかりを出しているので、
手に取っていただくと、北山杉の魅力が伝わります。